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プロジェクトストーリー

イネいもち病の殺菌剤「トルプロカルブ」を
開発研究者たちの熱い思いが、新製品上市に結実

introduction

果樹・野菜用の農薬向け化合物を探索中に、偶然見つかった水稲用殺菌剤の有効成分トルプロカルブ。新規化合物の可能性を信じた研究者たちが熱い思いをもって粘り強く取り組むとともに、マーケティング・営業担当者も顧客視点で取り組み、新規作用発見から十数年を経て上市が実現した。
紆余曲折を経て市場へ送り出され、高い評価を得ているイネいもち病の殺菌剤「トルプロカルブ」の開発ストーリーを追う。

  • episode 01

    偶然見つかったイネいもち病に有効な新規作用

    女性社員が研究をしている様子

    episode 01

    偶然見つかったイネいもち病に有効な新規作用

    トルプロカルブは、三井化学クロップ&ライフソリューションが独自に開発したイネいもち病防除用殺菌剤である。イネいもち病はカビの一種による病気で、冷温・多雨の条件下で発生しやすい。日本の稲作では最も深刻な病害のひとつだ。

    近年、既存の農薬に耐性ができ効果が薄れたため、新しい薬剤の開発が待たれていた。トルプロカルブのリード化合物発見は2000年に遡る。果樹・野菜用の病気をターゲットにした探索を行っていた時に、偶然にイネいもち病に従来のメラニン生合成阻害剤とは違った新規作用を有する化合物が見つかったのだ。

  • episode 02

    「従来にない新規化合物の可能性」を信じた研究者たち

    男性社員が研究をしている様子

    episode 02

    「従来にない新規化合物の可能性」を信じた研究者たち

    イネいもち病は、主に日本で発生する病気で市場が国内に限定される。会社の戦略では大市場向けのテーマが優先されるが、この新規化合物の可能性を信じた研究者たちは動き始めた。

    いくつかの研究機関に出向き実験方法を相談、それを研究所に戻って試すということを1年半くらい繰り返し、データを揃えていきました」と、生物評価試験の担当者は振り返る。ほどなくして、新しいテーマリーダーが着任。「前任者たちが粘り強くデータを取り、特徴を見出してくれていたので、私はリード化合物を最適化することに集中できました。さらに農薬の規制がどんどん厳しくなっている中で、安全性が高く環境影響が少ない化合物であったことも幸運でした」。

  • episode 03

    イネに合った製剤処方まで、さらなる試行錯誤の7年間

    田んぼの横に立つ男性

    episode 03

    イネに合った製剤処方まで、さらなる試行錯誤の7年間

    2003年に開発テーマとして認められ、その年にはトルプロカルブにたどり着いたが、製剤処方決定まではさらに7年もの歳月を要した。なぜならイネの栽培スタイルに合わせた最適な処方を見い出すまでの試行錯誤が必要だったのだ。

    野菜や果樹の場合は液体状の農薬を散布する。しかしイネの場合は、耕作地の土壌への影響を最小限にするために、育苗箱(いくびょうばこ)に薬剤を処理し、田植え後にイネを育てる過程で、徐々に薬剤が溶けて浸透させる粒剤が主な製剤型となる。「イネは5月頃に植えて10月頃に収穫するので、その間は薬の効果を持たせないといけない。そのための製剤検討にすごく時間がかかったのです」と、製品設計を担ったメンバーたちは振り返る。前出の生物評価試験担当者は、7年間、茨城県にある圃場に通い、製剤処方を決めるための試験とトルプロカルブの有効性を確認するための試験を繰り返した。

episode 04

2010年から委託試験を開始し、15年6月、ついに登録完了

「圃場試験ではいもち病を意図的に出すのですが、病気を出し過ぎてイネが全部枯れてしまったこともあり、試行錯誤の連続でした」製品設計の担当者も「いもち病の発生しにくい環境下で、均一に病気を出すのが難しかった」と振り返る。

社内試験を終え、2010年から一般社団法人日本植物防疫協会を通じて全国規模の公式委託試験を開始。ここでようやく、いもち病への安定した効果が公式に認められた。
トルプロカルブの作用点と思われる酵素を取り出し、トルプロカルブが直接その酵素の作用を抑えることを確認する実験は、入社間もない社員が担当したが、新人ながら粘り強く学術的なデータとしてまとめ、新規作用性を明確にする役割を担った。
これら様々な評価データをもとに2013年に新規登録申請を行い、2015年6月に農薬登録を完了。この時にまとめられた論文「殺菌剤トルプロカルブの作用機構」は、2016年農薬学会の論文賞を受賞した。

Episode 05

プロジェクトリーダーも、開発陣の熱意に押された

2015年4月には、上市に向けた社内の公式プロジェクトが立ち上がった。「日本限定市場であること、耐性菌出現の危惧があること、お客様である農家のメリットがあまり感じられなかったこと、そのような理由からトルプロカルブの開発には消極的でした」

とプロジェクトリーダーは回想する。研究職出身ながら営業に転じた立場ゆえ、農家のメリットという顧客視点からも開発を疑問視していたのだ。しかし議論を重ねていく中で、研究者たちの思いを知り、また、新規作用点のデータ取得に取り組む姿勢を目の当たりにして気持ちが変わっていったという。

  • episode 06

    何としても世に出したい、売れる特徴を自分たちで見つけろ

    研究員のミーティングの様子

    episode 06

    何としても世に出したい、
    売れる特徴を自分たちで
    見つけろ

    いもち病は日本の地域毎に発病の程度が違うので、販売のことを考えると地域に合った製剤をつくる必要がある。

    製品設計の担当者は「何としても売れる特徴を見つけたいと、データ作りに取り組みました。新規作用機構以外の作用特性でいかに差別化していくかに注力しました」と語る。 プロジェクトメンバーからも「農薬の袋を開けやすくしよう」「田んぼにいる農家さんでも簡単に情報を得られるようにスマホで動画や情報の提供をしよう」など、さまざまな顧客視点のアイディアが積極的に出されるようになった。

    さらに、上市に向けて社内の協力体制をより強固にするため、国内6事業所で説明会を開催した。「当初は、研究・製剤・営業の各担当者の間で考え方が異なっていたり温度差があったりと、バラバラな状態でしたが、説明会後には横の連携がとれ、一つになったように感じました。若手中心に主担当を決めると、一人ひとりが責任を持って動いてくれました」。新しい農薬を上市するという目標に向かって、多くの関係者の気持ちが揃っていったのだ。

    三井化学クロップ&ライフソリューションの中期経営計画では「研究開発の強化」を掲げている。“新しいものを創り出す技術力”を活かし、研究開発、製造、販売が一体となって創出されたトルプロカルブは、その製品力もさることながら、その後に続く、原体開発、製剤開発に当たっての開発モデルという意味でも重要な位置づけとなっている。