オリゼメートの作用3.顕微鏡検証するオリゼメートの作用
電子顕微鏡で観察したいもち病菌の感染過程を下図に示しました。イネ葉身や穂の病斑部では膨大な量の胞子が分生子柄上に形成され(写真1)、一部はイネ体表面に落下します。イネ体上の胞子は、表面が濡れていると、発芽してイネ表面に付着します(写真2)。その後、発芽管の先端が半円球状にに膨らみ付着器となります。付着器は侵入するための器官です(写真3)。いもち病菌の付着器は最初着色していませんが、成熟するにしたがって淡褐色〜黒褐色となります。メラニン合成阻害剤を処理すると、付着器の原形質膜と細胞壁の間にメラニン層の形成ができずに侵入できなくなります。これは、細胞壁の貫穿に必要な物理的な力となる膨圧が高まらないためです。いもち病菌のイネ体への侵入は、付着器底部中央から原形質が突出することから始まります。この突出部位は侵入菌糸となって表皮細胞の細胞壁を貫通した後に、表皮細胞内で侵入菌糸となります(写真4)。侵入菌糸は枝分かれしながら伸展し、蔓延します(写真5)。菌糸が蔓延すると肉眼的にも病斑として認められるようになり、また病斑上に胞子を形成するというサイクルを繰り返します。
プロベナゾールの作用過程を明らかにするために、根と葉身を付けた状態のイネ葉鞘の内側にいもち病菌を接種する非切断葉鞘裏面接種法を用いて接種し、その後、経時的に光顕観察しました。オリゼメート粒剤無施用区では宿主細胞の抵抗反応は少なく、侵入菌糸が蔓延しています(写真6)。それに対し、オリゼメート粒剤を水面施用した場合には、付着器からの侵入は無施用区と同じですが、侵入を受けたイネ細胞が「褐変・壊死反応」を起こし、菌糸の伸展を停止させています(写真7)。
次に、オリゼメート粒剤を水面施用したイネ葉身に、いもち病菌を接種してで電子顕微鏡で観察しました。無施用区では、侵入菌糸が葉身全体に蔓延しているのが観察されました(写真8)。
それに対し、オリゼメート粒剤施用区では侵入菌糸は葉肉細胞まで伸展することはなく表皮細胞で止まっており、被侵入表皮細胞は壊死し、細胞内容物が崩壊することにより顆粒が形成されています(写真9)。
感受性品種のコシヒカリでも、少窒素施用で生育した場合や葉齢が進んだ場合は、いもち病菌の感染を受けにくい状態(いわゆる抵抗的体質が強い状態)となります。こういった抵抗的体質の強い状態のイネでは、このオリゼメート粒剤施用で観察された「褐変・壊死反応」と同じ反応が被侵入細胞のほとんどで認められました。このことから、オリゼメート粒剤を施用した場合には、この抵抗的体質の強い時に発現する抵抗性が、体質の弱い時にも強く発現して、いもち病菌の伸展を阻害しているものと推測されます。
石川県立大学 農業資源研究所 教授 古賀博則